JIDnews 272

JIDnews は、公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会が発行する機関誌です。

TOPIC

The After Milano Design Week

西日本エリア 安多 茂一

「毎日が疲れる日々。社会情勢もどんどん悪化し先行きも見通せない。今まで室内を緑の植栽やペール系ファブリックで飾ってみたけれど、癒されるだけで何も現状は変わらなかったよ。このままではダメだ。思い切って旅に出よう!週末だけの森のピクニックではなく、ラクダに乗って砂漠を旅し、宝石を探しに出かけよう。もうノマドだぜ!。。。。って気分なんだよなー。
他人からの評価を意識した自分の「感性」。これも楽じゃない。いつもトレンドを追いかける毎日にはもううんざりだ!規則や常識にがんじがらめに縛られ、情報は溢れんばかりに一方的に与えられてしまう。毎日が新しく、昔を懐かしく顧みる暇もない。そんな生活に終止符を打とう。社会を気にする「感性」ではなく、人間である自分自身の「感情」を呼び起こし、システマティックな生活から逃亡するんだ!
なんて強気な発言をしたものの、俺には無理だよな(悲)。とりあえず、インテリアだけはそんな気分にしとこう!と。」


トレンドはアースカラーにミネラルストーンを
アクセントにしたモノクロマチックニュートラル。
ノマドなイメージ / Flexfarm


Masterpieceの復刻 / 喜多俊之 : wink chair


素材を利用しサーフェイスデザイン / Bulthaup


感情の解放 / Lemsvelt

いまやインテリアトレンドは家具単体の表現からライフスタイル全体をデザインする形に変わりつつある。その様な背景のもと、トレンドはメーカー主導の押し付けではなく、逆に社会の潜在意識をデザイナーが汲み取り、デザインに落とし込むことでメーカーがそれをトレンドとして追随する形になりつつある。今回のサローネで見つけた新しい傾向も上記のつぶやきのような社会背景を顕著に反映している。
色調はアースカラーを主体にストーンカラーのアクセント、ニュートラル系のモノクロームレンジが目立つ。ノマドを意識した配色で、そこに植栽のグリーンはもはや存在しない。サーフェイスは素材感だけに頼らず更に人の手を加えた意匠が復活、ラスティックナチュラルが影を潜めだした。Simple,MinimalブームがBold, Vanityへと変化し、パターンも幾何学模様から抽象的に。機能や単体のフォルムではなく、風景や物語を演出できる家具が好まれる。新製品だけではなく、Masterpiece(過去の名作)を積極的に復刻させるハイエンドブランドも目立ち、クラシカルな家具も注目され、デザインの要素にHistory(歴史)や懐かしさといった時間軸が持ち込まれた。これらの事象を検証してみるとトレンドはまさに「人間回帰」「感情」をテーマにそのフェーズは動いているように感じる。
宗教、富国、資本に利用されつつ発展してきたインテリアの歴史を経て、次の「インテリア」は私達の「生き方」を見つける為に存在するのかも知れない。そんなことを想う今年のミラノデザインウイークだった。